東京高等裁判所 昭和31年(う)2647号 判決
被告人 遠藤総司
〔抄 録〕
次に当裁判所は職権を以て調査するに、被告人に対する昭和二十七年六月二十五日附起訴状によれば、本件公訴事実は、被告人は昭和二十七年六月六日川崎市公民館に於て開催されたスターリン全集発刊記念講演会に出席したものであるが、同会閉会後同日午後九時五十分頃より同会場所在地川崎市富士見町五百四十七番地地域より国電川崎駅方面に向け国道上を川崎市公安委員会の許可を受けないで約二百名位と共に無届示威行進に移り川崎市警察長の発した解散警告に応ずることなく同デモ隊の先頭に立ち赤旗一旒を打振りインター歌を高唱しつつ同デモ隊をひきい行進を誘導し以て同デモ隊の指導をしたというのであり、罪名は川崎市集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例違反、罰条例は同条第一条、第五条に該当するというのであつて、原判決は右公訴事実中約二百名位とあるを約百五十名位とした外右と同一の事実を認定し、起訴状記載の罰条を適用して被告人を有罪としたものである。そこで右川崎市条例について調査すると、同条例は昭和二十五年八月二十二日川崎市条例第三十五号を以て制定公布され即日施行されたが、その後昭和二十九年十月一日警察法の施行に伴う関係条例の整理に関する条例の公布施行により廃止されたことが明らかであるから、原判決が右条例を適用したのは、法令の適用を誤つたもので、その誤が判決に影響を及ぼすこと明らかであるから原判決は破棄を免れない。
よつて刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十条により原判決を破棄するが、当裁判所は更に職権を以て調査すると、神奈川県においては昭和二十五年十一月一日神奈川県条例第六十九号、集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例が公布即日施行されて現在に至つており、その内容は前記川崎市条例と同一であることが明らかであるから、本件犯行当時(昭和二十七年六月六日)は勿論、本件起訴(昭和二十七年六月二十五日)から原審第三回公判(昭和二十七年十一月十一日。この公判において原審更新前の裁判官が弁論を終結した)まで及びその後川崎市条例が廃止されるまでの間は、右両条例は併存していたものである(原審は昭和二十八年一月十日弁論を再開しその後弁護人の都合又は被告人の病気のため公判期日が数回変更され、昭和三十一年七月二十三日裁判官が更迭して第四回公判を開き、公判手続を更新して弁論を終結し、同年八月十日判決を言い渡した)故に本件については昭和二十九年九月三十日までは両条例のいずれを適用してもいいのであるが、同年十月一日以後は神奈川県条例のみを適用すべきところ(同条例が合憲なることは後記説明のとおりである)検察官は当審において罪名を昭和二十五年神奈川県条例第六十九号、集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例違反と、罰条を同条例第一条、第五条と変更する旨請求したので、当裁判所は右請求を許容し刑事訴訟法第四百条但書により更に次のように判決する。
当裁判所の認定した事実及び証拠は、原判決の認定した事実及び証拠と同一であるからこれを引用する。
法律に照すと、被告人の判示行為は、昭和二十五年神奈川県条例第六十九号、集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例第一条に違反し、第五条に該当するが、論旨中川崎市条例が憲法に違反し無効であるとの論旨は、これと内容を同じくする右神奈川県条例に罰条を変更された以上同条例が憲法に違反するとの論旨を含む趣旨と解釈して判断するに、両条例の内容は同一であるから当裁判所は川崎市条例が合憲であると同様右神奈川県条例も合憲なるものと認め前記法条を適用する。そして所定刑中懲役刑を選択し、その刑期範囲内で被告人を懲役四月に処し、刑法第二十五条第一項により本裁判確定の日より二年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用中原審の訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文に従い全部これを被告人に負担させることとする。
(大塚 渡辺辰 江碕)